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INTERVIEW

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『好きと仕事』インタビュー | 07

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仕事は違えど、学ぶものはある

Adrian Hogan

エイドリアン・ホーガン

イラストレーター

月日を重ねることで味わい深くなるもの

4年ほど前から革のペンケースを使っています。京橋(東京)にある[ポスタルコ]というお店で買いました。日常的に使うものを、使いやすくデザインしたグッズを生産、販売していて、どういう考えを元に作ったのか、コンセプトをしっかりと伝えているそのお店自体も好きです。イラストレーターとして駆け出しの頃は、家で絵を描くよりも外で描いた方がいいと思い、カフェで絵を描いたりしていましたね。ボロボロの紙袋に色鉛筆を入れていたんですが、見た目もよくないし、もう少しプロフェッショナルな雰囲気を出したいなと思って買いました。革のペンケースは手作り感もあって、ときめきます。たまにそのペンケースを磨いてお手入れをしています。何回使っても飽きないし、使えば使うほど傷が付いて色味も変わって、エイジングされていく。買った時は高いと感じましたが、ずっと使えるものとして価値があると感じています。

尊敬する観察力とそれを絵にする才能

好きなイラストは大正時代や昭和時代のものが多くて、中目黒の[COW BOOKS]で買った小林泰彦さんのイラスト・ルポ『若者の街』は70年代前後の当時の東京、アメリカ、イギリスのファッションやインテリアなどを描いているんですが、今でも今っぽいと感じるイラストです。昔は今のように携帯がなかったので、彼は本当に「見ていた」気がします。今だったら携帯で写真も撮れるし、画像も検索できる。でも彼は旅先で出会った色々な人や物や景色を忘れないように絵を描いていたはずです。僕も普段から同じ景色や人を描いていますが、描いている途中で今まで気づかなかった新しい視点を発見をすることがあります。この本はそういう意味で、僕にとってはリマインダーのようなものです。

日本にいたからこそフォーマルな服装に

イラストレーターの世界ってドレスコードがあまりないんです。僕はいろいろなタッチの絵を描くので、個性を出すには、作品よりも僕自身が前に出ていかなければいけないと思っています。日本にはSocial norms(社会的規範、ルール、慣習)やElitism(エリート思想)があると感じていて、実は見た目で判断されることが多い気がします。まだ日本で仕事があまりなかった頃は、そういう状況下でどうしたら自分がプロフェッショナルに見えるのかを考えることが難しかったですね。だからスティーブ・ジョブズみたいに自分の制服を作らないといけないと思ったんですが、カジュアルな服装は違うかなと思いました。ビル・ゲイツのような成功者だったらカジュアルな服装をしようが誰も何も気にしないと思います。僕が思うに、絵を描くことは子供でもできるというイメージが強いので、フォーマルすぎると違和感があるし、革靴だったらスニーカーより少しフォーマルになる。革製品を好きになった最初のきっかけは、身に付けることでフォーマルな雰囲気を纏うことができたからだと思います。フォーマルな格好をtoo muchに感じる人もいるかもしれませんが、日本にいるからこそ、そういう考え方になった部分もあります。

仕事は違えど、学ぶものはある

僕の故郷のメルボルンには大きいブランドやファストファッションが多いのですが、大きい会社より小さい会社を応援したい人も多くいます。そういう影響もあってか、若いテーラーや靴屋さんを応援したいと思います。僕が住んでいる台東区にはオーダーメイドの革製品を作っている人が割と多くて、よくよく考えたら仕事の内容は違うものの、職人さんとイラストレーターは似ていると思うことがあるんです。職人さんとお客さんの関係や、やり取りなど、イラストを描く時にお客さんの要望を汲み取って、場合によってはイラストのタッチを変えたりする。タッチにも色々と歴史があるように、職人さんには職人さんの技術の歴史があるので近しいものを感じます。お客さんの考え方を理解できるように、僕もお客さんとして革職人さんに靴をオーダーしてみたり、それによって彼らのお客さんに対しての接し方やサービスも勉強になっています。

長い時間をかけて楽しむ

日本語に「好き」という言葉がありますが、僕にとっての「好き」は長い時間をかけて自分にJoyをくれるもので、何が自分にとって大切なものなのかを見極めないといけないと思っています。例えば、僕が犬の絵を描いたとして、おそらく犬好きの人は犬が好きだからという理由だけでその絵を欲しいと思い、僕の絵自体に価値があると感じない場合もあると思うんです。僕は自分のイラストで作ったTシャツを、ティッシュのように1回着ただけで終わりにされるのはものすごく悲しいと思います。例えば、京都に[トキノハ]という伝統的なお皿やお椀を作っているお店があるんですが、そこでは若い人たちが日本の伝統を守りながら現代的なものを作っています。今年の3月に京都の[TO SEE]というギャラリーを通じて、彼らと一緒にマグカップを作ったんですが、一つ一つ手作りのマグカップに僕のイラストが描かれています。僕はイラストレーターとして、買う人が長く使ってくれるものに関わっていきたいです。

その人の暮らしに寄り添う絵

6年も日本に住んでいるのに、今まで日本の職人さんとあまり一緒に仕事をしてこなかったと最近気付きました。先ほど話した[トキノハ]とのコラボレーションのように、次も何かコラボレーションしたいと思っています。あとは人の暮らしに寄り添った原画や作品などのイラストを考えていきたいですね。例えば、結婚式のウェルカムボードを作る時に、レセプションのためだけではなくて、結婚式が終わった後でも家で楽しめるようなものです。前に、ある夫婦のウェルカムボードを描いた時、出席者の顔を一枚ずつ描いていき、それらをフォトショップでコラージュして、キャンバスに印刷しました。後日、原画の絵を切り離せる仕様で一冊の本にまとめて、その夫婦にお渡ししました。彼らは両親や友達にその原画をあげたようで、それを聞いてとても嬉しかったです。イラストを通して、もっと長く人々に楽しんでもらうためにはどうしたらいいのか、イラストレーターとしてこれから僕ができることをもっと考えていきたいと思っています。

Profile
Adrian Hogan
オーストラリア・メルボルン出身。モナシュー大学卒業。雑誌、広告、書籍、壁画、絵コンテ、など幅広く活動中。主な仕事に、雑誌『POPEYE』、Starbucks Reserve Roastery Tokyo壁画、Air Jordan広告など。
Photo: Masayuki Nakaya Text: Yuko Nakayama