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『好きと仕事』インタビュー | 06

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日常の中で非日常が際立った時に、「好き」の感情は生まれる

龍崎翔子

SYOUKO RYUZAKI

株式会社L&Gグローバルビジネス代表

日常の中で非日常が際立った時に、「好き」の感情は生まれる

今、好きなのは「プールサイド」ですね。2年くらい前、ベトナムのホテルに泊まった時に、プールサイドで昼寝したり、お酒を飲んだり、スマホをいじったりしてのんびり過ごしていたんです。そういった日常のありふれたひとコマが、プールサイドという非日常の空間で際立ち、スペシャルな体験になりました。「DO(=何をするか)」によって非日常があるのではなく「BE(=どこに自分がいるのか)」によって、すごく自分の輪郭が際立つ感覚を覚えたことが、ドラマチックな記憶に繋がったんだと思います。

その感覚は、ホテルでの体験にも近いと思います。ホテルで行われる行為は、帰って、着替えて、お風呂に入ってと普段と同じだけど、それが自宅ではなくてホテルの部屋というちょっとした非日常空間で行われることによって、体験が色濃くなるというか、忘れがたいものになる。そういう意味で、ホテルとプールサイドはリンクしています。そもそも、安らげるプールサイドがあるプールって、ホテルにしかないことが多いし。ホテルのスピンオフとしても、プールサイドが好きですね。さらに、最近ではエステ、ヒーリング、スパに興味があって。「このオイルとこのオイルが、あなたに合っています」と、カウンセリングされるのは、日常にはない特別感があって、とても好きです。だけど、まだ漠然と憧れているだけなので、好きの解像度が低い。解像度を高くするために勉強したいですね。

あと、京都のホテル[HOTEL SHE, KYOTO]のロビーに置いている、アイスクリームやサボテン、ヤシも好きです。アイスは、国籍や老若男女を問わずに楽しめるグローバルフード。そして、私が感じる「京都らしさ」を表現しています。観光客にとって、京都は整然としているイメージがあると思うけれど、住人としてはカオス。古いものと新しいもの、東洋と西洋、この世とあの世が混在している上に、時間軸も加わっていて、そのごちゃ混ぜ=マーブル感を表現するためにアイスを置いています。カウンター越しに提供するのもホテルっぽい。サボテンが好きなのも、もともと砂漠が好きで、その砂漠の中に潤っている空間が特に好きなので、それに対する憧れです。ヤシのようなオアシスぽい植物が好きなのは、よく考えると、ホテルも日常のオアシスだから?これもホテルにリンクしていますね。

小学生で目標設定、中学生での疑似体験を経て、大学生でホテルオーナー

実は、ホテルのことは単純な「好き」とは、ちょっと違うんです。私はいま、京都、大阪、北海道の富良野、層雲峡、神奈川の湯河原で5つホテルを企画・運営しています。ホテル経営は小さなころからの夢でした。きっかけは8歳の頃。アメリカに半年だけ住んでいて、その最後の1カ月をかけて家族でアメリカ横断ドライブ旅行をした時のことです。毎晩、ホテルに泊まるのですが、どこも期待はずれ。どのホテルも部屋は代わり映えせず、同じような景色でした。ホテルに期待していたのに裏切られ、モヤッと不完全燃焼を感じたことが、自分の「好き」なホテルを作るという目標にスイッチしました。

2015年、東大在学中に、富良野でペンションを始めた時は母と二人、周囲には内緒のスタートでした。その頃、世間は起業ブーム。東大生たちが立ち上げたキュレーションメディアを、わずか2年半でバイアウトして10億円を手にしたというニュースが話題に。バイアウト目的の起業に、少し違和感を感じていました。お金を稼ぐためとか、自分が何者かであることを証明するために起業するのではなく、シンプルに「こういうホテルに泊まりたかった」という悔しかった過去を癒すために、ホテルを始めたかった。だから「あいつは起業しているらしい」「意識高い」みたいな感じとか、「あいつのやってるビジネスモデル、新規性なくねぇ?」みたいなことを言われたり、褒めてもらっても「女子大生起業家だ」みたいなことを、自分の目的とは違う文脈で語られるのが嫌で、誰にも言わずにひっそりと始めました。

自分の今の「働き方」のルーツができたのは、中学の頃かなと思っています。学校行事を頑張るタイプで、合唱コンクールの指揮者や学級劇の監督になったり、クラス旗のデザインをしたり、今やっていることと近いですね。生徒に積極的に取り組ませてくれる中学で、行事をどうやってプロデュースするか、自分がやりたいことをどうやって実現していくか、そういうことを楽しむのが好きでした。クラスメートたちが「龍崎についていったら、他のどのクラスよりもいい出来になりそうだ」と、私を信頼し、協力してくれました。私は何をしたとかではなくて、ただやりたいことを、どれくらいイイか、楽しいかを語っていただけ。実は、他のメンバーが裏でまとめてくれていたのも分かっていて。人に甘えているつもりはなくても、見かねた誰かがやってくれている。今もその頃の延長線で、私が「行くぞ!」と引っ張るのではなく、周りのみんなに助けられていますね。

誰か「好き」に乗っかって、自分の「好き」にリメイクするのもあり

現在、5つのホテルを運営する[株式会社L&Gグローバルビジネス]とその関連会社は、2016年に京都のホテルがオープンした時に加わったメンバーが基盤になっています。メインのスタッフは2人。ひとりが会社全体を見るゼネラルマネージャーで現在はCEOとして在職、もうひとりは大阪の支配人や支配人たちのリーダーとして、会社を引っ張ってくれていましたが、現在は秋葉原で異なるホテルの支配人をしています。違う業界から来て、ホテルに興味を持ち、自分のものにする。そういう「人の好きに乗っかる」みたいなキャリアアップが、私の会社では多いですね。

[HOTEL SHE, KYOTO]には、詩人の最果タヒさんとの期間限定コラボルームがあるんです。そのきっかけというのが、ツイッターです。最果タヒさんのアートディレクションを担当している人が「詩のホテルをやりたい」とつぶやいたのを、青山ブックセンターの店長が見て、私たちの会社の企画担当にリプライしてくれました。ちょうど私たちも、最果タヒさんとご一緒したかったので実現に至りました。そういった「好き」が相手に届く、ミラクルもあったりします。

私の場合、過去の体験から「自分がやらないと」という責任感や、愛おしさや慈しみの気持ちから、ホテルが好きなんだと思います。「好き」の角度っていろいろありますよね。まっすぐに好き。湾曲した好き。ぼやけている好き。念ずれば叶う好き。必ずしも「好き」を仕事にする必要はないと思うけど、自分がなぜそれを好きなのか? 自問自答することは仕事に活きると思います。私も、いつか、プールサイドのあるホテルを作ろうと企んでいます。

Profile
龍崎翔子
株式会社L&Gグローバルビジネス代表
1996年生まれ。2015年にL&G GLOBAL BUSINESS, Inc.を設立し、京都・HOTEL SHE, KYOTOをはじめとし、全国で5つのホテルの運営を手掛ける。今年はホテル予約システムのための新会社CHILLNN, Inc.を本格始動。
Photo: Elephant Taka Text: Mayuka Haginaga