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『好きと仕事』インタビュー | 04

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「好き」をカテゴライズして、仕事に繋がる「好き」を探す

小坂誠

MAKOTO KOSAKA

第七藝術劇場・シアターセブン映画編成担当

人生観が変わるほどの衝撃を受けた、ドキュメンタリー映画との出合い

映画が好きで今の仕事に就いているのですが、きっかけは中学生の時に観たアメリカの野外フェスの元祖『ウッドストック・フェスティバル』ドキュメンタリー映画。これを観た瞬間、映画はエンタメ的に楽しむ以上のモノだと体感しました。そのワンシーンで、若者の男女が裸で水浴びして遊んでいたんです。思春期ど真ん中の僕は、大人が裸で戯れるシーンに頭が「?」だらけ。そこに映っていたのは、今までの自分が経験した「だいたい普通の日常はこんなもんだ」という思い込みの外の外、自分の知らない世界だったんです。その感覚をいまも映画に求めていて、スカッと泣いて笑うエンタメ系よりも、知らなかった世界を見て衝撃を受けるような作品が好きです。当時は、わけがわからないまま「すごいものを観た」という感じでしたが、大学時代には、作品が訴えている内容がどんなものかを認識した上で、ドキュメンタリー映画の影響を受けるようになりました。その作品『A』は、地下鉄サリン事件後のオウム真理教を、教団の内部に入り込み撮ったドキュメンタリー。教団を社会の敵だと思い込んでいた、自分自身の「正義」が揺るがされるような衝撃を受けました。視点が異なれば見え方が180度変わる。世の中がひっくり返るくらいのカメラの力、映画の力を感じました。大学院に通っていた頃映画に関わる仕事をしたいと思いながらも、普通の就活をしていました。ミニシアターは募集がなかなかないのですが、たまたま今僕が働いている[シアターセブン]で募集があって。とんとん拍子に職が決まり、次の週からフルタイムで来てくれと。それで大学院を休学して、劇場に居着いてしまったんです。そのあと、大学院にもどり無事に卒業。2012年に[シアターセブン]に入り、2017年からは[第七藝術劇場]も兼務で、編成の担当をしています。編成とは、両館の上映プログラムを白紙の状態から埋めていく仕事です。内容は、作品の選定、スケジュール、上映時間、公開日、1日の上映回数、初日の舞台挨拶やトークイベントなど、幅広いです。当館の場合、上映する映画は、配給会社から紹介を受けた作品が7割。残りの3割は劇場が独自に選ぶので個性が出ます。単純に自分の好みで選んだり、売り上げが見込める作品を選だり。劇場を続ける上では、どんなに良質な作品を上映してもお客さんが入らなければ潰れてしまうので、仕事としての判断を求められます。僕自身の好みとしては、その作品を観てスカッとするだけではなく、何か心に引っ掛かるものが残って、次の日からの生活に影響があるようなものをできるだけ上映したいと思っています。「これで終わりか」と、結末がスッキリしないけど、映画館を出た後にもずっとモヤモヤを引きずってしまうような、深く考えてしまう作品が好きですね。

「好き」をカテゴライズして、仕事に繋がる「好き」を探す

映画が好きな人にもいろいろな種類があります。演技している役者、カメラワーク、映画技術、フィルムが映写されている空間が好きという人。でも、映画が好きということと、映画館で働くということは、実際に仕事をする上では分けて考えた方が良いと思います。映画館での仕事は、映画を作るわけではなく、出来上がった作品を選んで人に見てもらう仕事。劇場で働く時間が長いし、休日も配給会社から送られてくる上映依頼のDVDを観て次に劇場でかける作品を検討していたりするので、他の劇場に行く時間が取れないことが多い。映画が好きでこの仕事をしているのに、結局、映画を自由に観に行く時間が減った、ということになります。本当に映画が好きで、休みの日に好きな映画を何本も見たいという人には、映画館で働くのはおすすめできないですね。それより、映画が好きという気持ちを自分の中だけで終わらせられない人、自分が感銘を受けた映画をより多くの人に観てもらいたい、という人には向いているかもしれません。

繰り返しになりますが、僕は映画を通して得られる体験に興味があり、他の人にもこの自分が得た感じを体験して欲しくてこの仕事を選びました。そして今まさに、自分が上映したいと思った作品を大阪で多くの人に見てもらえるという状況を作ることができて、嬉しく思っています。もともと、人に作品を薦めたり、作品の話をしたりすることが好きなので、比較的「好き」が仕事に繋がっている方かな?と思っています。

どんな仕事もそうですが、いくら自分が好きな分野といえども好き放題はできない。編成の仕事も同じです。好みの映画ばかりを優先するのではなく、収益も考えないといけません。自分が高く評価した作品と動員が、全くリンクしない時もある。かといって、ワンスクリーンの劇場なので、すごくヒットしてもそれで大儲けができるわけではなく、逆にちょっとくらいお客さんが減っていても損害が少ない。動員数は大事だけれど、そればかりを考えていると、ワンクリーンの劇場が存在している意義もなくなる。そう考えると、今の自分は好き放題の割合が高い方ですね(笑)。

最近、当劇場の上映作品『精神0』の感想をZOOMで語り合うというイベントをやりました。僕は進行役で、全国から参加したお客さん同士で語り合ってもらうという内容です。事前にイベントの概要を聞いた監督本人も当日は加わって、2時間大盛り上がりでした。そこで話すうちに、もう1回その作品を観てみようという人も現れて。SNSで作品情報を流すだけじゃなくて、顔を知っている人から「あれ、おもしろいよ、ぜひ観て」と薦めてもらうのが、観客動員には1番効果があるんです。口コミをどれだけ広げられるか、それが映画の動員にはすごく重要だと思っています。

「好き」な仕事の内側で、もう1つの「好き」を見つけた

映画館で働くようになって、自分が今まで映画好きとして全く持っていなかった「興行を成功させる」という視点が増えました。[第七藝術劇場]はドキュメンタリーに強いイメージを配給会社に持たれているので、社会性の強い作品や時には過激な作品が回ってくることも。過激な作品を紹介されたときは「たぶん他でやらないだろうな、ここでかけて話題になりそうだな」とニヤリ。過激な作品であればあるほど「面倒くさい」という感情よりも、ヒットへの期待が先に頭に浮かびます。興行には、観る側の人には分からない感覚があります。「これはうまいこといく、大ヒットするぞ!」と感じたときはワクワクしますね。しかし、映画の興行は水もの、直前までどうなるか分かりません。お客さんはあまり来ないだろうと、1日1回、朝だけの上映予定にしていた作品が、直前でTVや新聞に取り上げられて問い合わせが殺到。お客さんが多い昼間の時間帯で1日2回の上映にしておけばよかったと悔やむこともあります。失敗はたくさんありますが、興行は生き物のようなもので、そこがおもしろいところです。

Profile
小坂誠
第七藝術劇場・シアターセブン映画編成担当
1987年、ギリギリ昭和生まれ。滋賀県出身。京都と大阪での長い大学生時代は、バンド活動と廃墟巡りに明け暮れる。2012年より映画館で働き始める。社会はお前が思っているほど厳しくない」と息子に説教することが夢。
Photo: Tamami Tsukui Text: Mayuka Haginaga