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INTERVIEW

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『好きと仕事』インタビュー | 03

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ミニマルと反対側の世界にいたい

手塚芳子

YOSHIKO TEZUKA

The Bee’s Knees Inc アートディレクター

ミニマルと反対側の世界にいたい

アーティストマネージメント[The Bee's Knees]のクリエイティブディレクターとして、自社に所属する世界中のアーティストやイラストレーターとタッグを組み、デザインやプロダクトなど形にとらわれないアウトプットを作っています。私の人生において欠かせないものは、アーティストやイラストレーターが創造するジオメトリックでカラフルな柄ものです。最近はミニマルなデザインが流行っていると思いますが、最小限の情報で成立するミニマルな世界とは正反対の場所に私の「好き」はあります。例えば、バニラとチョコのアイスがあったら、私は絶対にチョコを選びます。何かが足されていないと物足りないと感じてしまうんです。モノトーンが嫌いという意味ではなくて、世の中にはこんなにもたくさんの選択肢があるんだったら、王道ではないものを選びたい性分なんです。今日持ってきたお気に入りのエコバックは、一緒に働いているNYの二人組のアーティスト[Leta and Wade]が、[ハーマンミラー]という家具のブランドと最近コラボレーションしたもの。最近亡くなったおばあちゃんのクローゼットから見つけ出したシャツも好きです。70年代はサイケデリックなデザインが多くて、手書き感がありますよね。逆に現代はコンピューターで作った複雑な模様がたくさんあるような気がします。

小さい頃から培われた感性が、ロンドンで開花

幼少期の頃から仲良くしていた友人の家に遊びに行くと、今までに見たことがないようなアメリカ製のビビットな色合いのフィギュアやおもちゃが所狭しと置かれていて、それがカラフルなものを好むようになった最初のきっかけだったと思います。私は90年代育ちなのでギャル文化に囲まれて「more is more」と言わんばかりに、カラフルで派手な柄ものの世界観に「可愛い」「楽しい」と気分が上がっていたのを覚えています。大学では経済学を専攻していたんですが、プレゼンテーションで発表する資料をいかに美しく、分かりやすく作るかによって得られる説得力に感心して、そこからグラフィックデザインに興味を持ち始めました。卒業後は以前から興味があった留学を決意し、ロンドンの大学で念願のグラフィックデザインを学びました。街中を歩けば、人々が身に纏うファッションやお店の内装の柄ものが目に入り、幼少期や高校生の頃に慣れ親しんだ記憶と重なりました。今振り返れば、ロンドンでの生活が今の趣向につながるターニングポイントの一つだったと思います。私が影響を受けた一人、ナタリー・ドゥ・パスキエはデザイナーでもありアーテイスト。彼女は80年代に「メンフィス」というインテリアデザインのムーブメントを仕掛けた創立メンバーで、当時は機能性を求められるミニマルなデザインが主流だった建築業界に対し、ジオメトリックや抽象的なパターンをテキスタイルや家具に取り入れ、革新的なムーブメントを起こしました。そんな彼女のバックグラウンドに共感し、彼女の展示の際に購入した『Don’t Take These Drawings Seriously: 1981-1987』は今もお気に入りの一冊です。

「やりたくない」仕事をするのではなく、「やりたい」仕事をする

小さな頃からファッションが好きでしたが、周りと同じであるようにと求められることにストレスを感じていました。自分が好きだと思う服装を身に纏い、髪の色を明るくしてみては周りの大人からは怒られ、みんなと同じことをやらされているという気持ちが蓄積されてばかり。大学生になると「毎日スーツを着て働かないためには、好きなことを見つけなければいけない」というロジックが頭の中を巡ってしまい、「自分が好きなことはグラフィックデザイン」というのが、終わりなき自問自答に対する純粋な答えでした。1年間イギリスでグラフィックデザインを学び終えた後は、日本に一度帰国しウェブメディアを運営する会社で社員として働きましたが、頭の片隅にある「本当に好きなことをしているの?」という自問は続きました。それからはロンドンにワーキングホリデーで戻り、カフェで働きながらフリーランスのグラフィックデザイナーとして生活を始める一方で、両親からは将来に対するプレッシャーもあり...。でも今更別の仕事はやりたくなかったですし、やっぱりグラフィックデザインを仕事にしたかった。そうこうしているうちに、ファンでもあった大好きなアーティスト、Beci Orpin(ベッキー・オーピン)やCraig & Karl(クレイグアンドカール)が今の会社に所属していたことがきっかけで、[The Bee's Knees]の存在を知りました。所属しているアーティストのラインナップを見て「絶対に社長と気が合う」と直感。コンタクトを取り、めでたく働くことになったんです。

「カラフル」で「柄」があってこそ、私のアイデンティティ

依頼を受けたプロジェクトによって、自社に所属するアーティストやイラストレーターを適材適所に厳選し、彼らと共にプロジェクトを円滑に進めていきながら、相手が求めるアウトプットを生み出す方向に導いていくことが私の仕事です。プロジェクトに対しては、常にお互いにとってエキサイティングに感じる仕事を手がけたいという思いがあります。自ずとオリジナル性が高く、私の大好きなカラフルな柄ものを提案してしまうこともしばしば。もちろんクライアントさんが欲しいものに合わせて提案をするので、相手が白と黒のモノトーンが欲しいと言っているのに、ピンクを勧めることは流石にしません。それでもできる限り、今までに見たことがないような「個性」が光るさまざまな色調や柄ものを帯びたアウトプットを提案したいと思っています。どうしてこの柄なのか色なのか、そして作者は何を伝えたいんだろうか。具象的で抽象的な柄は、見る側に答えを委ねられているような気分にさせられて、それも魅力の一つと感じています。

自分のためだけの柄を探して

今まではアーティストやイラストレーターのアウトプットを最終的に広告にしたり、作品にする仕事をしてきましたが、今後は自分発信の物作りをしたいと考えています。ファッションブランドを立ち上げたいという願望があるというよりも、自分が着る服を自分で作ることが理想です。そのために自らテキスタイルをデザインし、服やカバンなど自分が欲しいと思うものを作っていきたい。欲しいものが自分で作れたら、幸せですよね。昔から周囲の人と被らないように好きな服を着ては怒られてばかりいましたが、自分で働いて得たお金で好きな服を買えるようになってからは、誰とも被りたくないという気持ちがより一層強くなりました。結局のところ、服は自己表現の一つですよね。誰とも被らない、自分だけの洋服を身に纏うことほど、最高なことはないと思っています。

Profile
手塚芳子
青山学院大学でビジネスを専攻したのちロンドンのセントラルセントマーチンズでグラフィックデザインを学ぶ。プロデューサーやグラフィックデザイナーを経てThe Bee’s Kneesに参加 。クリエイティブディレクション、デザインの傍らライター活動やポッドキャスト配信も行う。
Photo: Masayuki Nakaya Text: Yuko Nakayama