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INTERVIEW

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『好きと仕事』インタビュー | 02

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「好き」だった音楽の仕事から、思い切ってキャリアチェンジ

ROKKAN

ロッカン

ROKKAN DESIGN、ART DIRECTO

他人が捨てた「ゴミ」にも、価値があることを学んだ少年時代

一貫して昔から好きなものは「ゴミ」。小学生の頃、大型ゴミや燃えないゴミを拾って帰っては、おかんに怒られていました。そのゴミを使って工作したり、そのまま再利用したり。ゴミを拾うようになった一番のきっかけは「もったいない」という気持ち。子どもの頃、住んでいた家の近くに高級住宅街があって、大型ゴミ、燃えないゴミの収集日になると、まだまだ使えるものがたくさん捨てられていて、それを拾いに行っていました。スピーカーと板を拾ってきて棚作ったり、そういうことを昔からしていて、今でも好きです。廃墟を見つけたら許可を得て捨ててあるガラクタをもらったり、石を拾ってきたり。家にストックがたくさんあって、それを欲しい人にあげたり、自分でリメイクしたり。「ゴミを新しく使う」みたいなことが、自分の「好きなこと」のルーツになっています。よく言えば、価値がないもの、みんなは価値がないと思っているものに、価値を付けるのが得意なのかもしれません。
子どものときに好きだった遊びの延長が、現在の仕事にも繋がっています。例えば、ブランディングの仕事は、まだ売れていない人やモノをどういう風にヒットさせるかを考えることだと思っています。クオリティの高いものが売れていない理由はひとつだけ、世間にその価値が認知されていないからです。一般の人に刺さらない、かっこ良すぎる、クール過ぎるモノには、もうちょっとやわらかい見せ方を提案します。日本は、かわいいものの需要がすごくある。世間の多くの人たちは、自分が理解できないモノに対して距離を置くので、その距離を縮めるのが僕の仕事だと思っています。このカフェは妻の実家で、元は舞妓さんたちが暮らしていた置屋さんでした。古民家を壊さずにどうやって活かすかを考え、ほとんどいじらず、家具やインテリアを加えるだけでカフェに再生しました。壊して新しく作り変えることは一瞬の起爆剤にしかならない、いずれは廃れていくものだと僕は考えています。今はこのカフェがある元林院町(奈良市の中心地に位置する、元花街の歴史的町並みが残る地域)を守る会に参加し、この地域の古い町並み保存の役に立ちたいと考えています。

「好き」だった音楽の仕事から、思い切ってキャリアチェンジ

20代前半までは、当時夢中になっていた音楽を仕事にしていましたが、音楽は収入に波があるので、デザインを仕事にしようと決心。子どもの頃の夢がアーティストだったのもあって、大学は美術系に進学していました。大学ではグラフィックやヴィジュアルコミュニケーションの学科にいましたが、自分の作品を生み出すことにしか興味がなくてパソコンは使わずにプロダクトばかり作っていました。改めてデザインを仕事にしたいと考えた時、仕事に必要な技術を学ぶため専門学校に2年通学。広告の制作会社に入ったのですが、結局「広告の仕事なんかやりたくない」と半年で辞めてしまいました。その後、貯めたお金で実家のある京都や沖縄、ニューヨークなどを旅するように暮らし自由を満喫。しかし、東京に住んでいた時、ついにお金が底をついたので、デザインの仕事を友達に紹介してもらいながら、人材派遣にも登録して働きました。そのころ仕事をさせてもらっていた人たちが、どんどん売れて有名になっていって。デザインは黒子の仕事だけど、それを見てくれていた人がいて、仕事が徐々に増えて軌道に乗ったんです。その後、東京の目黒区にある[みどり荘]というシェアオフィスに入りました。あの頃は、住人のように朝から晩までずっとオフィスに居て仕事ばかりしていましたが、苦痛ではありませんでした。[みどり荘]のメンバーは、自立した仕事をしているおもしろい人ばかり。みんなとの距離が近かったし、仕事にも繋がりやすかったです。今でも、そのメンバーと仕事をすることは多いですね。

子どもの頃の夢と経験、好きだった音楽がMIXされた、理想の働き方に着地

僕の仕事はブランディングがメインで、それに必要な制作物のディレクション、デザイン、スタッフのアサインがメイン。タレントさんの写真集のフォトディレクションや、店舗や商業施設に設置する大型ディスプレイの製作・ディレクションもしています。東京は良くも悪くもプレッシャーがあり、すごく目立つことをやらないと誰も見てくれないので、必死に「新しいことをやろう、新しいことやろう」と考えていました。でも冷静に考えると、それは本当に自分がやりたいことではないように思えてきて。クリエイティブを作ることは正しいことだとは思うんですが、誰かがやってないことをやろうというスタンスだけでは、時にクライアントの邪魔をするんじゃないか。クライアントが求めているものに対して、どういう答えが出せるかを一緒に考える方が正しいのではないかと。でも東京にいると売れたい気持ちが先走って、新しいことや目立つことを優先して、ちょっと違う方向にいってしまって。売れた人たちは仕事が増えるけれど、クリエイティブの引き出しがなくなって、人の真似をしたり、誰かを蹴飛ばしてでも上にいきたいと思ったり。そうなってしまうと、理想とは真逆。今までは自分のために働いてクリエイティブだと思っていた仕事が、“ライスワーク”になっちゃったりする。それって、つまらないですよね。今では、遊びの延長が仕事になればいいなと思っています。いろいろな場所へ遊びに行って、そこで知り合った人と仕事をしたり。[Phaseworks]という音楽の仕事では、とりあえずみんなで集まって、海でサップとかシュノーケリングをしながら、ごはんを食べて、みんなで喋って、と遊んでいるうちに仕事の形になっていく。他にも、そういう商談や打ち合わせが増えてきています。クライアントと家族ぐるみで釣りに出かけてコミュニケーションをとったりすることもあります。今は奈良に完全に引っ越したので、東京の事務所をひき払う代わりに、車中泊ができる車を買いました。東京だけでなく、自由な場所に行って仕事をして、温泉に泊まろうとか、海で仕事をしようとか、ワーケーションですね。毎日毎日、事務所で働いて寝るの繰り返しだったのが、「今日はどこで仕事しようかな」に変わった。車があるといつでもどこでも自由に動けて、いい感じです。今の暮らしの方が支出を抑えられているし、奈良に来てからは時間の使い方にも、人との距離の取り方にも、新しい価値を見つけられたような気がます。理想のワークスタイルも実現できたし、奈良で暮らすようになってよかったと心から思っています。

Profile
ROKKAN
ROKKAN DESIGN、ART DIRECTOR
FashionやArtistのブランディングを中心に2018年からは地方に目を向け、伝統工芸や製造業のブランディングから新規事業提案まで次の時代へ向けたアップデートをテーマに活動している。
Photo: Elephant Taka Text: Mayuka Haginaga