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『好きと仕事』インタビュー | 01

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寝る間も惜しまず働いていた人生に、おもちゃ現る

赤司竜彦

TATSUHIKO AKASHI

株式会社メディコム・トイ代表取締役社長

寝る間も惜しまず働いていた人生に、おもちゃ現る

元々は美容師の道を歩んでいましたが、予想以上の体力勝負の世界に身体を壊してしまい、友人の紹介でKKベストセラーズという出版社の記者として働き始めました。ちょうど『クロコダイル』という情報雑誌が創刊された頃に雇われ、様々なファッションやカルチャーを取材するのが仕事でした。1年ほどして取材先のベンチャーIT企業の社長からヘッドハンティングされ、クライアントとプログラマーの間に入って通訳するプロデューサーのような仕事を任されました。他にも社長がエンタメ系の業界と繋がりがあったので、3人の音楽アイドルユニットのマネージャーをしたりと忙しかったですね。今にして思うと一つも無駄なことはなく、個性が強いアーティストにどう華麗に対応しながらプロジェクトを遂行させていくか、という能力が培われました。給料は良かったんですが、使う暇がなかったんです。ところが、ある日、渋谷のファイヤー通りにあった[ザップ]という、アメリカのインポートトイを扱うおもちゃ屋にふらりと入ってみると、その世界観にすっかり魅了されてしまったんです。当時はターミネーターやバットマン、ティム・バートンのキャラクターものが人気でした。気づいたらお財布にあったお金を全て使ってしまい、帰りの電車賃は残っていなくて、仕方なくその日は歩いて帰ったのを思い出します(笑)。

まさに、好きこそものの上手なれ

根が凝り性だから、集め始めたら止まらない。そういう生活を一年ほど続けて、部屋中に飾られているおもちゃを見つめていくうちに、いつしか「自分だったらこう作るのにな」という発想によって芽生えた「おもちゃを作ってみたい!」という気持ち。週末にあちこち足を運んでは、おもちゃがどうやって作られているのかを聞き回ったりしていました。社長にも副業を認めてもらい、恵比寿に3畳ほどのアメリカのインポートおもちゃ屋を始めることができました。仕事を終えてからお店に立ち寄っては、「最近は何が一番流行っているんだろうな」と思いを巡らせていました。閉店後もよくお店に立ってお客さんと話したり、そこで知り合った人たちの中には今でもメディコム・トイのスタッフとして働いている人が何人かいて、非常に面白い経験ができました。寝る間も惜しまない日々が続きましたが、勉強は情熱には叶わないものです。水を吸うスポンジのように、おもちゃの作り方やライセンスの取り方など、ありとあらゆるおもちゃの知識、情報を吸収していた時期は楽しくて仕方がありませんでした。1996年には所属していた会社の社名から[メディコム]を引用し、[株式会社メディコム・トイ]を設立しました。

21世紀を代表するデジタルなテディベア誕生

[BE@RBRICK]が誕生したのは2001年です。それまでの5年間はルパン三世などのフィギュアを手探りで作っていました。2000年にオリジナルブロックタイプフィギュア [KUBRICK]を作成した際には、ティム・バートン監督作品の映画『PLANET OF THE APES / 猿の惑星』前売り券特典のノベルティ案件が舞い込みました。当時の前売りチケットの売上記録を更新したことで、多くの映画会社からオファーをいただきました。しかし、映画会社が望むタームと商品の製作期間がまるで合わなくて、もう少し短いタームで仕事を回せるようにできないかと考えていたある日、新聞で「2001年でドイツのテディベアは100周年」という記事を見かけたんです。100年以上も愛されるクマのぬいぐるみに思いを馳せながら、あと1年で21世紀という狭間で「21世紀のデジタルなテディベアを作ろう!」という着想を得ました。そして、[KUBRICK」を少し改造して生まれたのが[BE@RBRICK]だったんです。当時はオリジナルの商品を製作するほどの予算はあまりなくて、どれだけ売れるかも検討がつかなかったのですが、蓋を開けてみたら[BE@RBRICK]のシリーズ第1弾は、非常に売れました。約20年も前の話ですが、正直そこまでのヒットは想像していなかったので、当時は驚きを隠し切れませんでしたね。

好きなものを集めていく、繋げていく

[BE@RBRICK]を白地のキャンバスに見立てることで、そのコラボレーションの可能性は無限に広がります。初期の取り組みとして2004年にアーティストのカウズとのコラボレーション。最近では、アンディ・ウォーホールのグラフィックとの組み合わせが評価され、その後も葛飾北斎やゴッホミュージアムともコラボレーションしています。ファッション業界とメディコム・トイとのコラボレーションで言うと、渋谷PARCO2階にはギャラリーNANZUKAさん、小木‘POGGY’基史さんとの新しい形のスタジオ [2G]を昨年の11月にオープンして大盛況を迎えることができました。10月16日から渋谷PARCOの[POP BY JUN]でポップアップショップをやらせてもらうことになっているのですが、本当に色々な作家さんにお声をかけさせていただいて、メディコム・トイのコンセプトを説明し、色々な作品を集めることができました。他にも、今まで両者に接点のなかったであろうアーティスト同士を掛け合わせることも積極的に取り組んでいます。

常に新しく、面白い何かを世に生み出すために、受け入れ、そして行動し続ける

みんなが幸せになるにはどうしたらいいかと考えることが、僕の仕事の中心。誰と仕事をして、誰と仕事をしないという考えはありません。面白いと思ったものは全部かたちにできたら良いという一心で仕事をしています。うちのスタッフはおもちゃが好きで、おもちゃを作りたくて働きに来ているので、スタッフからアイディアが生まれた場合は、よほどメディコム・トイの趣旨に反していない限り、できるだけ彼らの声をフックアップしたいと思っています。また、まだ見ぬコラボレーションを生み出すためにも、新しいアーティストの発掘も欠かせません。毎年開催されるワンダーフェスティバルやデザイン・フェスタに足を運び、全てのブースを周ります。実際にデザイン・フェスタで見つけた方が、音楽レーベルのジャケットを描くことになるよう上手く繋げたこともあります。そして、 [2G]に関しては、嬉しいことに海外から出店オファーをいただいています。コロナがなかったら、今頃は2店舗ほどオープンしている予定でした。それらを一つずつ実現させていきたいと考えると、やはり仕事以外に時間を費やすことはこれからもなかなかなさそうですね。

Profile
赤司竜彦
株式会社メディコム・トイ代表取締役社長
東京都出身。1996年、メディコム・トイを設立。「自分達が欲しいものを作る」をコンセプトに、映画・TV・コミック・ゲームなど幅広い分野のキャラクターフィギュアを企画製造。来年2021年は、メディコム・トイ25周年を迎える。
Photo: Masayuki Nakaya Text: Yuko Nakayama